お腹が空きました。
杉崎のここでの勤務も、残りわずかになった。
今日から4日間はフランス。帰国してからの残り3日の有休はのんびり過ごして、そこから2日ほどの勤務であっさり部署移動。
あー、寂しいな。
キンキンと響く携帯を耳に当てたまま、紗耶はまたそのことを思い出してしょぼくれた。
「行ってきたら?」
ポンっと肩に手が乗って、振り返って見れば穏やかに微笑む牛野がおり。
繋がったままの携帯を手で塞ぎ、紗耶は小さな声で呟く。
「牛野さん。」
「あはは相手側の人、声大きいね。良く聞こえてるよ。」
そう笑ながら牛野は紗耶の携帯を指差した。
「行っといでよ。杉崎にも言っておいてあげるし。どの道俺の車で送る手はずになってたでしょ?杉崎の奴…っ、帰り道、俺と紗耶ちゃんの二人きりになるのかなり気にしてたし。」
ぶはっ!と思わず吹き出しながら牛野は腹を押さえる。
か な り、とまた強調するように囁き、牛野はまたぽんと紗耶の背中を押し、廊下を去って行った。
『室内先輩!室内先輩⁈』
「あ、ごめんっ」
『じゃあそういうことでお願いしますね‼︎分かりました⁈』
「へ?あの…」
プツッと切れた通話に、ヘロヘロと紗耶の眉が下がる。
げ、元気いっぱいじゃないか。
携帯をポケットにしまいながら紗耶は、ところで木下さん、下の名前なんだっけ?などとぼんやり考えたりした。