お腹が空きました。

気がついたら杉崎の家の扉に鍵を差し込んでいた。

ガチャリと音を鳴らして扉が開く。

薄暗い部屋に踏み入れ、紗耶は手探りで灯りを付けた。

人の気配がない。

いつもより寂しく感じる部屋の、いつもの椅子を紗耶は優しく撫でてみる。

「…。」

カタリと椅子を引き、ゆっくりと腰を下ろした紗耶は、一回だけ深いため息をついた。

…。


居ないんだなぁと、改めて実感してしまう。

…。

「……っ、よしっ!」

紗耶はグッと握りこぶしを作り、意を決してもう一度携帯をタッチした。

『杉崎さん、そっちはどうですか?

フランスって寒いですか?

美味しいものはありますか?

ご両親は元気でしたか?

こっちは、…やっぱり杉崎さんがいないと寂しいです。

いっぱい楽しんだ後、早く帰って来て下さいね。

待ってます。



紗耶はそんな文章を打ち込んで、そっと送信ボタンを押す。

そして、何故か。




ピロリロリン。





「…ん?」


軽やかな音色がキッチンの方から聞こえた。


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