お腹が空きました。
「ああそれね、…んー、一瞬考えたけど、止めたから。」
止めたの?!てか一瞬だったの?!
紗耶は無言でバッと真っ白な仕切りを振り返った。
「…優ちゃんみたいな大切な人が出来たんだ。海外なんて行ってられないでしょ。」
「先輩…。」
あ。
多分、良介、今笑ってる。
仕切りで全然見えないけれど、二年間で蓄積された記憶の中から、大好きな良介の笑顔が脳内に広がった。
ふんわりした、可愛い笑顔。
色んな記憶が何故か今まぶたに広がる。
大学まで、手を繋いで歩いた事。
一緒にマックで新商品をかぶりつきながら笑いあった事。
隣に並んで受講して、ノートで会話した事。
キスする前の照れた顔。
朝のベッドの中で優しく微笑んでた、彼の顔。
それが今、全部カードみたいにくるりと裏返しになって、真っ黒に染められる。
なんで…?
ただ別れたいなら、そういえばいいじゃない。
よく食べるとこが嫌いだったなら、そういえばいいじゃない。
他に好きな子が出来たなら…そういえばいいじゃない。