†危険な男†〜甘く苦い恋心〜Ⅱ
「……っ…」
ペタリと床に座り込み、自分の体を抱き締めた。
抱かれている時、廉は相変わらず優しかった。
あの頃と、何も変わらない…。
でも…
「心が通じ合っていないのに、こんなこと…悲しいだけじゃない……」
廉はまだ、あたしを思い出していない。
それでもいいからと、抱かれたのは自分なのに。
そんなことを考えていると、さっきの記憶が蘇った。
ーー…
『樹里…泣いてるのか……?』
廉はあたしの体を抱きながら、不安そうに尋ねて来た。
そっと優しく涙を拭うと、あたしの額にキスをした。
『もしかして、痛い?』
『……っ…ううん…気にしないで…。続けて…』
ブラウスのボタンを優しく外した手も、耳をなぶる熱い唇も…紛れもなく、廉のもの。
でも。
『ぁ…っ、廉…』
グッと抱き寄せられて、体が繋がる。
思わず彼の背中に爪を立ててしまう。
瞳に溜まった涙を、彼の長い指が優しく拭う。
『……っ…く…』
ポタリとあたしの鎖骨に彼の汗が落ちる。
廉は怪我しているのに…。
『れ、ん…辛かったら、もう……』
『ダメだ…。最後まで、お前を抱きたい……』
熱い吐息混じりの言葉に、何も言えなかった。
ただ、最後まで彼の大きな背中にしがみついて、変わらない愛しい人の熱を感じていたかった…。