わたしのピンクの錠剤
 
2冊の母子健康手帳と親父の古い運転免許証をランドセルのファスナー付きのポケットに忍ばせた。

そして、散らした部屋の中を片づける。

頭の中はお母さんのことでいっぱいだった。


お母さん、帰ってきたかなぁ。
まだだよね。
えーと、10年前に43歳だから、今は53歳かぁ。

どんな顔、してるのかなぁ。

髪は長いのかなぁ。
白髪まじり・・、ってことはないよね。


お母さんのことを考えているだけで嬉しくて、浮かれて、はしゃいでいた。

挙げ句はテレビ番組よろしく、10年ぶりの再会の場面を妄想したりしていた。


しかし、時間が経つごとに、夢はどんどんしぼんでいった。


お母さんが生きてるってことは、つまりわたしが捨てられた子供、ってことだった。


それでも、あの時は仕方なかったのよ、と涙ながらに言うお母さんの姿を望んだ。

そして、それが近い将来の出来事でもあるかのように頭から離れなかった


 
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