幸せまでの距離

専門学校から近い公園。

メイはそこからリクに電話をかけ ていた。

この敷地の周辺にはたくさんの木 が植えられており、木々が集中す る茂みには街灯の光も届かず、完 全に死角となっている。

昼ならまだしも、この時間帯に人 を探すのは困難な場所だ。

公園内や表の通りから見ても、こ こにメイの姿があるとは気付かれ ない。

1時間ほど前にミズキとナナセの 声がしたが、メイは木々の間に身 をひそめてそれをやり過ごした。

大木にもたれ、芝生の地面に座り 込むと、リクに向けた言葉をひと り頭の中で繰り返し、ケータイを にぎりしめる。

ミズキ達に対してこういう言動を 取ってしまいそうな自分が、一番 こわかった。

だから今は顔を合わせたくない。

――本心であって本心でない、メ イ自身にもつかみ切れない自分の 心。

長年かけて心の奥底に蓄積され た、マイナスの感情。

今メイは、好きであるはずのリク を傷つけたくて傷つけたくてたま らなかった。

なぜだか、苦しめたくて仕方な かった。

「でも、今日でそれも終わり だ……」

あれだけ辛辣(しんらつ)な言葉 を浴びせたのだ。

リクはもう二度と、自分には関 わってこないだろう。

ホッとする反面、メイはひどく寂 しい気持ちに襲われた。

一方的にしかけたとはいえ、リク との関係はぷっつり糸を切るよう に途切れてしまった。

「リク……。離れていかない で……」

ケータイを両手でにぎりしめる と、メイは祈るように涙を流し た。

深緑の茂みには、彼女の嗚咽(お えつ)だけが響く。

さきほどまで泣き出しそうだった 空は、メイの心境とは真逆に晴れ 渡っており、いつの間にか満月が 浮かんでいた――。











第3話《恋の終わり》 終

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