幸せまでの距離
精神医療のスペシャリストによるカウンセリングと治療をして患者の心の傷を積極的に治そうとしてくれる病院もあるが、
中には、患者に薬だけを渡して、まともなカウンセリングをしない病院も珍しくない。
薬には様々な種類がある。
憂鬱や不安、イライラ、パニック、不眠を落ち着けるものや、気力·集中力·食欲の減退を改善していくものが主だろう。
薬しか出さず患者の心をみようとしない病院·医者に当たってしまえば最後、
患者は薬の効果で得られる安心感を強く求めるようになり、「薬がないと精神がおかしくなる」と考えるようになる。
薬を飲めば気持ちが落ち着くため、一見、心の治療が成功したようにも思える。
しかしそれは一時的なごまかしに過ぎない。
心の奥底に蓄積された苦しい思い出や忘れられないトラウマは解消されないまま残っている。
薬の成分が体内から消えると、ひどい喪失感と絶望感に苛まれる患者がほとんどだ。
そういった悪い感情から逃れるため、薬を手放せなくなり、通院前の精神状態に戻るのも難しくなる。
皮肉なことに、薬によって病気が悪化することもある。
そういった薬物治療には10年以上かかる場合もあるので、患者の努力と辛抱が必要になるし、
薬の種類にもよるが、発汗、体重増加、性機能障害、皮膚が敏感になることによる日焼けや発疹といった副作用が起きることもある。
誤って飲む量を間違えると、副作用による毒性で命の危機にさらされる場合もある。
一般的に、精神科医と聞くと人の悩みを軽くしたり解決の手助けをしてくれる人という印象があるが、実際はそうではないケースもある。
患者と精神科医の相性も重要で、それは治療に影響する。
最悪、「患者を殺す気なのか」と言いたくなるほど、目茶苦茶な投薬治療をしている精神科医もいる。
精神的な病は体にも異常を起こさせるのに、風邪や腹痛といった目に見える病気のように対処法が確立していないから、内科で身体検査をしても「異常なし」と言われてしまう。
目に見えない心の病気。
そういった見えないものに対する治療の難しさは常々指摘されている。
ゆえに、大成と菜月は、メイを精神科の病院に連れて行くことをためらっていた。