幸せまでの距離
投薬治療を始めると、なかなかやめることができなくなる。
誤って多量に飲むと副作用が出るし、少なくすると、再発·禁断症状に陥(おちい)るからだ。
患者の判断で「もう薬は必要ない。気分は楽だ」と思い薬をやめると、禁断症状を引き起こし薬を多量摂取してしまう。
結果、病状を悪化させてしまう。
また、医者の指示通りに薬を飲み続けていても、病気が悪化することがある。
不眠、不安、頭痛といった症状が出たり、死にたい気持ちになったり、本当に自殺をしてしまうこともある。
ミズキ達は、メイがそうなることだけはどうしても避けたいと思っている。
「やっぱり、私たちでメイをサポートしようよ。
病院は最終手段だと思う」
ミズキはまっすぐな目をして言った。
臨床心理士になりたくて大学に通っているのに、メイのために精神科医に頼ることを避けてしまう矛盾が悲しい。
「メイの心全部を理解するなんて、いきなりは難しいかもしれない。
でも、私たちはメイの家族なんだから」
「……そうね。
メイも、専門学校に受かって新しい生活に踏み出そうとしてるんだものね。
私たちも出来ることをして背中を押してあげましょう」
菜月の言葉に、大成もうなずく。
「そうだな。メイもつらい思い出と戦いながら頑張ろうとしてるんだ。
リク君もメイを気にかけてくれているしな。
僕たちも出来るだけのことをしてあの子を見守っていこう」
心の治療は心でしていこう。ミズキ達はそう決めた。
松本リク(まつもと·りく)はメイの幼なじみ。
彼は、4月からN大学の学生となる。
メイとリクは、付き合っているのかいないのかよく分からない微妙な間柄。
ミズキ達は、メイの心を気遣う傍(かたわ)ら、そんな2人の仲をそっと見守っていたのだった。
第1話《闇と病み》 終