幸せまでの距離
ここには、ミズキが求めている答 えがあるかもしれない。
望む書物がありますように。
期待を胸に本棚の前に立ち、片っ ぱしからタイトルを拾っている と、
「星崎さん、授業に出なくて大丈 夫?」
と、友好的な口調に話しかけられ た。
「笹原先生……」
背後を振り向くと、ミズキのゼミ を受け持つ笹原(ささはら)教授 が立っていた。
優しい人となりがそのまま雰囲気 ににじみ出た、白髪混じりの初老 男性である。
「今日、遅刻してしまって……。
時間つぶしに、本でも読もうか と」
ミズキが気まずそうに目を伏せる と、笹原教授は、
「いやいや。そんな顔しないで。
まあ、人間だから、寝坊すること もあるよね」
笹原教授はゼミの時と同じよう に、フレンドリーに話しかけてく る。
サボりを責められなくてよかっ た、と、ミズキはホッとし、笑顔 で対応した。
「笹原先生も、何か調べものです か?」
「そうだね。それもあるけど、星 崎さんが思い詰めた顔でここに 入ってくのが見えたから、気に なって。
これも職業病かな」
「私、そんな顔してました?」
ミズキは朗らかに返したが、心の 内を教授に気づかれたことで冷や 汗が出た。
今の自分には昨夜のことを隠す余 裕すらなかったのだと、気付かさ れたようで……。