幸せまでの距離


勤務先の居酒屋。

メグルは、やや遅い食事休憩に入った。

ゴールデンウイークは、どこも人が多 い。

彼女の働く店も、そうだった。


居酒屋として店がにぎわうのは夜だけだ が、昼間はランチタイムとして、様々な 定食を客に出している。

ゴールデンウイーク中限定で定食の割引 サービスを始めた影響で、メグルの店も 目が回るほど忙しかった。


夜も近くなり、夕焼け色が空の隅に追い やられる頃。

メグルはようやく、休憩室に入ることが できた。


店の再奥にある、和式部屋。

朝から立ちっぱなしで疲れた足を座敷に なげだし、メグルは厨房係が用意したハ ンバーグ定食を口にした。

デミグラスソースの匂いに、腹が鳴る。

リラックスした瞬間、忙しさで気になら なかった空腹感が戻ってきた。


割り箸を割り、メグルはリモコンでテレ ビをつけた。

ちょうど、夕方過ぎのニュース番組が放 送されている。

《遅咲きの名俳優!長かった下積み時代 を語る》

そんなテロップと共に映し出されたの は、この間までメグルが交際していた、 池上トウマだった。

「トウマさん…!」

メグルはテレビに近づき、画面の中の彼 をまじまじと見つめた。

彼は、某ニュース番組のインタビューに 応じているところである。

ニュースキャスターの隣に座るトウマ。

女性アナウンサーからの質問に、彼は丁 寧に受け答えしている。


「トウマさん……」

知人とは思えない。

メグルは彼を、遠くに感じた。

テレビから目をそらさず、食事を続け る。
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