幸せまでの距離

インタビューを受けるトウマの顔つき は、メグルの知る彼の表情からは掛け離 れていた。

自信に溢れているものの、どこか冷たい 目つき。

“トウマさんと付き合ったのは、短い間 だったけど……”

まだ胸に残っている、鮮明な記憶。

共に過ごす時間は少なかったけれど、メ グルはたしかに、彼のことを好きだっ た。


まるで小学生の頃に戻ったかのように、 トウマといると、自分も輝けるように感 じた。

メグルがトウマを好きになったキッカケ は、初恋の人に似ていたからである。

けれど、トウマと接するうちに、だんだ ん彼のことを好きになっていった。

夢を追いかけるトウマを、心から応援し たいと思えた。

熱い想いは永遠に続くと思っていたけれ ど、カナデの存在を知った瞬間、メグル の気持ちは急激に冷めてしまった……。

別の女性と二股をかけられたことに腹が 立ったわけではない。

どのような理由にしろ、一人の女性を平 然と自分の踏み台にしていたトウマのこ とが、人として許せなかったのだ。

“トウマさんの夢はすごいと思う。

実際、こうやってテレビにまで出るよう になってさ……”

夢を持たないメグルにとって、実際に夢 を叶えたトウマは素晴らしいと、尊敬の 気持ちもあった。

“でも……。人の心を踏みにじってまで 叶える夢に、何の価値があるの?”

画面の中、トウマが言った。

「今までつらい時もありましたけど、そ れは、自分にとって無駄なことではあり ませんでした。

応援して下さるファンの方のためにも、 今回の舞台は、今まで以上の気合いを込 めて演じます……!」

液晶に映るトウマの顔に触れ、メグルは つぶやいた。

「これが、トウマさんの夢だったの?

いつか、後悔しない……?」


トウマのインタビューが終わると、ポ ケットに入れておいたケータイが震動し た。

「メイ……?」

メイから電話がかかってきた。

< 634 / 777 >

この作品をシェア

pagetop