HAPPY CLOVER 2-ないしょの関係-
「おい、お前、ふざけんな!」

 田中や菅原らが凄んでラグビー部の男に詰め寄った。そこにようやく体育教師が数人駆けつけ、殴り合った二人は別々に職員室へと連行されて行った。

「清水、ちょっと来い」

 教室の戸口から田中が顔を覗かせて俺を手招きした。悪い予感がして慌てて廊下に出ると、案の定ウチのクラスのあるロッカーの扉がぐにゃりと凹んでいた。

「ここ、高橋さんのロッカーだろ」

 田中が指を差すまでもなく、そこは舞のロッカーで、鍵をしてあるせいか奇妙な形に歪み、ひしゃげた扉の隙間からロッカーの中身が半分近く見えている。あまりにもむごいやり方に顔をしかめた。

「なんてことしやがるんだ」

「とりあえず鍵を開けてもらおう。完全に元通りは無理でも、裏から叩けば何とかなりそうじゃね?」

「そうだな」

 舞を呼びに行こうとして目を上げると、戸口に彼女の姿があった。酷く傷ついた表情だ。そりゃそうだろう。狙ったように舞のロッカーだけが壊されたのだ。

「高橋さん、ロッカーの鍵貸して」

 一応約束なので「高橋さん」と呼ぶ。菅原たちに知られた今となってはあまり意味もないと思うが。

 舞がおずおずと近づいてきて制服のポケットから鍵を取り出した。クラスメイトたちが次々にやって来て舞のロッカーの惨状に同情の声を上げた。

「ちょっと酷くない? 全然関係ないのに、高橋さん、かわいそう」

「壊すなら自分のロッカーにしろっつーの!」

「今度やったらアイツのロッカーを皆で壊してやろうぜ」

 そんな中、遠巻きにしているグループからこの場にふさわしくない甲高い笑い声が上がった。振り返るとその発信源である女子と目が合う。



 ――西こずえ。



 俺のほうを見たまま、西は笑顔で隣にいる藤谷にひそひそと話しかけている。本当にムカつく女だ。軽蔑するような眼差しを投げつけてから前を向くと、田中が舞のロッカーの扉を外し、菅原がどこからか金槌を持ってきたところだった。

 無情にもチャイムが鳴った。もう二時間目が始まる。クラスメイトはぱらぱらと教室へ戻っていった。

「休み時間終わっちまったな」

 菅原が言いながら扉の凹みを金槌で叩いて直し始めた。

「貸せよ。俺がやる」

「おう。……ったく許せねぇな」

 珍しく菅原と意見が合った。金槌を差し出した菅原が、ニヤッと笑って空いている手で俺の腕を軽く叩く。

「清水、お前本気なんだな」

「昨日そう言っただろ」

 床の上に置いた舞のロッカーの扉を叩きながらそっけなく言った。菅原は鼻で笑う。

「そういえば言ってたな。……悪い、疑ってた」

「お前、感じ悪すぎ」

「マジでごめん。……高橋さんもごめんね」

 顔を上げた菅原は真っ直ぐに舞を見た。俺も舞を振り返る。

 ぽつんと廊下に立っている舞は、俺と菅原を交互に見て、頭を小さく横に振った。

「あの、もう十分です。今日一日くらい鍵できなくても平気だし、二人とも先生が来る前に教室に入って」

 俺と菅原は素直に舞の言葉に従い、立ち上がる。

 とりあえずロッカーに扉を取り付けてみると、まだ少し隙間は残るものの、何とか閉まるようにはなった。だが、鍵穴の部分が微妙にずれてしまい、肝心の鍵ができない。

「後は昼休みにやろうぜ」

「そうだな。舞、不便だけどちょっと我慢して」

「はい、大丈夫です」

 既に廊下は静まり返っていて、遠くから階段を昇る足音が聞こえてくる。先生が来たようだ。俺たち三人は急いで教室に戻った。

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