夜籠もりの下弦は恋を知る
翌朝、追われる身となった一門は福原の内裏に火をかけ、栄華を極めた地を後にした。
その後、彼らは船に乗り、九州へと赴いた。
そして、そこに新たな内裏を建てようと計画したが、豊後(ブンゴ)の国(大分県)の領主から反発され、泣く泣く四国へと逃れることとなった。
その日は雨が降っていた。
荒々しい風が砂や土を巻き上げる中、輔子は必死に歩いていた。
少し先には夫の重衡が自分と同じように、着の身着のまま、前へ前へと歩みを進めていた。
今、彼らは、豊後の国から三万余騎の軍が平家を討つため攻めてくるという知らせを受け、急ぎ足で九州から離れようとしている。
(…苦しい…)
大納言の娘として、今まで何不自由なく育って暮らしてきた輔子にとって、この現状は苦痛以外の何ものでもなかった。