夜籠もりの下弦は恋を知る
(…っ痛…!!)
足に痛みが走った。
獣道のような山道を歩くには、彼女の足はひ弱すぎる。
足の裏やふくらはぎの辺りを血で紅く染めながら、必死で夫の後を追う。
これは他の女性たちも同じだった。
知盛の妻や徳子なども、この苦しみに堪えながら生き延びるために前を目指している。
「あ…!」
木の根に足をとられた。
つまずき転んだ輔子に重衡がいち早く気づき、すぐさま近寄ってくる。
「輔子!大丈夫ですか!?」
「は、い…」
彼女の頬に雨が打ち付けられる。
今の苦しげな輔子の表情に、それは涙としてしか見えない。
否、本当に彼女は泣いているのかもしれない。
けれど、それもこの激しい雨の中では確かめる術もなかった。