夜籠もりの下弦は恋を知る

「な!?嫌っ…!!」

逃げようと腰をひく妻をガッチリと抱え込み、重衡は初めて輔子に命令した。

「抱かれなさい!輔子!」

「っ!?」


不覚にもトキメイてしまった。


「私に抱かれて、貴女に対する私の愛を、思い知りなさい…!!」


(やめて…頷きたくなってしまう…。貴方様の首に腕を回して、自分から求めてしまいそうになるのです…)

心の声は全て喉の奥へ押しやって、輔子はきつく瞼を閉じた。

拒めないことは、よくわかっているから。



知らず、涙がこぼれた。

「泣くほど、嫌ですか…」

着物を乱しながら、重衡が囁く。

「お答え下さい。私に抱かれるのが嫌ですか?それとも…『私』が、嫌ですか…?」

暗い中でも彼が苦しげな表情をしていることが、切ない声でわかった。

(嫌じゃない…嫌ではないのです…。どちらも私が望むもの。私が嫌なのは…)


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