夜籠もりの下弦は恋を知る
「…私は、自分が嫌なのです」
ポツリと漏れた本音。
輔子は重衡の頬に手を添えた。
「貴方様のことを思うと、浅ましい自分が浮き彫りにされていく…。重衡様のせいで、私はどんどん自分を嫌いになってゆくのです…」
夫に責任転嫁して、自分の弱さをさらけ出す。
「私のせい、ですか…?」
「はい…」
嘘だ。
本当は重衡を愛した自分のせいだとわかっている。
でも、そんなことは絶対に秘密。
「輔子…」
おもむろに、重衡が動いた。
自分の頬に添えられていた彼女の手を優しくとり、口づける。
「私は、貴女を愛しています。どれだけ苦しいと懇願されても、手放すことなどできませぬ」
(殿方は、狡い…)
そんなふうに言われたら、苦しくてもいいと思ってしまいそうになる。
「ですから、お覚悟を…」
重衡は短い言葉の裏に、妻に対する全ての熱情を孕ませた。