夜籠もりの下弦は恋を知る
翌朝、重衡は輔子よりも早く目が覚めた。
昨夜は遅くまで付き合わせてしまったため、妻はまだ夢の中だ。
彼はそんな輔子を見て微笑んだ。
(淫らな貴女も美しいですが、あどけない寝顔も愛らしい…)
軽く頬に口づけを送り、乱れた着物を整えにかかる。
「ん?これは…」
身支度を終えた重衡は、文机に置かれていた紙を手に取った。
彼が発見したのは、昨日輔子が書いていた歌だった。
「嘆きつつ ひとり寝(ヌ)る夜(ヨ)の明(ア)くる間(マ)は いかに久しき ものとかは知る…」
(これは…輔子が書いたのでしょうか…)
そうとしか考えられない。
重衡はもう一度、眠る妻を覗き込んだ。
「輔子…すみません」
(私も、どうすればいいのか…思いあぐねているのです)
彼はその歌の紙を懐にしまうと、静かに部屋を後にした。