夜籠もりの下弦は恋を知る


 「で、そなたは愛しい北の方を一人褥に残してここに来た、と…?」

朝早く訪れてきた来客を、知盛は呆れとも怒りともつかぬ感情を込めて見つめた。

「…兄上、私はどうすれば良いのでしょう」

重衡といい、輔子といい、どうして困ったことがあるとうちに来るんだ?ここはお悩み相談室か?

と、知盛は思った。

顔には出さないが…。


「…何があったのだ?」

面倒だが話を聞くことにした兄は、屋敷の縁側に座る弟の隣に腰を下ろした。

「兄上は…不安になりませぬか?」

「何がだ?」

「己の北の方を、壊してしまうと…」

「壊す…?」

重衡の言わんとすることが理解できず、知盛は首を傾げる。

「今朝、輔子の部屋でこれを見つけたのです」

重衡はあの紙を取り出し、中身を見せた。


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