夜籠もりの下弦は恋を知る
「井上黒って……名前?」
重衡だけに、こそっと尋ねる潤。
「はい。前世の知盛兄さんの愛馬の名です」
どうやらこのラブラドール、前世の愛馬の名前をつけられてしまうほど、知盛に可愛がられているらしい。
(知盛さんは動物好きか…)
ふーん、と納得。
「じゃ、長いしちゃ悪いから、そろそろアタシはおいとまするわ」
チビワンコを抱き上げて居間から揚羽がそそくさと立ち去ろうと廊下に出る。
「あっ!」
「おっと、すまん」
出た瞬間、揚羽は誰かにぶつかった。
「あ、お帰り維盛」
重衡が居間から顔を出し、甥っ子の帰宅を確認する。
「ああ、ただい、ま……………」
重衡に帰ってきた挨拶をしながら、維盛は固まった。
「維盛?」
目を丸くしてその場に立ち尽くす彼に、重衡が疑問を抱いて呼びかける。
「維盛さん、どうしたのかな?」
ひょこっと潤も顔を出し、目を見張る維盛をしげしげと観察した。