夜籠もりの下弦は恋を知る

「……す、すまない!!」

突然の謝罪。

それだけ言うと、維盛は脱兎の如くこの場を去った。


「…何?今の人」

揚羽が重衡に解説を求める。

「俺の兄さんの息子、平野維盛。俺たちと同学年ですよ」

「なんかさ、アタシのこと凝視して走り去らなかった?」

「不躾(ブシツケ)な奴ですみません」


だが…と重衡は思った。

(あの維盛の反応…まさかとは思うが、彼女が…?)

揚羽をじっと見つめる。


「ん?何?アンタまで」

「いえ、別に」

(まあ、お節介はやめておくか)

するなら本人に確かめてからの方がいいだろう。

「維盛さん、ワンコにびっくりした、とかかな…?」

「違いますよ。潤さん、彼のことは気にしなくて大丈夫です。貴女は俺のことだけを考えていて下さい」


< 95 / 173 >

この作品をシェア

pagetop