夜籠もりの下弦は恋を知る
「……す、すまない!!」
突然の謝罪。
それだけ言うと、維盛は脱兎の如くこの場を去った。
「…何?今の人」
揚羽が重衡に解説を求める。
「俺の兄さんの息子、平野維盛。俺たちと同学年ですよ」
「なんかさ、アタシのこと凝視して走り去らなかった?」
「不躾(ブシツケ)な奴ですみません」
だが…と重衡は思った。
(あの維盛の反応…まさかとは思うが、彼女が…?)
揚羽をじっと見つめる。
「ん?何?アンタまで」
「いえ、別に」
(まあ、お節介はやめておくか)
するなら本人に確かめてからの方がいいだろう。
「維盛さん、ワンコにびっくりした、とかかな…?」
「違いますよ。潤さん、彼のことは気にしなくて大丈夫です。貴女は俺のことだけを考えていて下さい」