ミルクの追憶
哀しみに暮れる毎日の中、クロエはフルートを吹き続けた。
いつか二コラが褒めてくれた曲ばかりを、何度も、何度も。
ベートーヴェン交響曲第七番、第一楽章と第二楽章。
そればかりを来る日も来る日も吹き続け、自分の家である洋館に引きこもるようになった。
“クロエは世界一のフルート奏者になるよ”
“クロエ、愛してるよ”
“クロエ、キミがいなければぼくは生きていけないんだ”
嘘つき。
哀しい音色に耳を這わせるうちにクロエの心に憎しみが渦巻きだした。
深く哀しい青に染まっていた彼女の胸のうちに黒い絵の具を溶かしたように、滲んでいく。
「二コラ、どうしてなの、二コラ」
泣きながら彼女は二コラの名前を呼んだ。
「二コラ、二コラ……」
それでも彼は彼女に会いにきてはくれなかった。