ミルクの追憶
二コラがたどり着いた先は大きな洋館だった。
ベートーベン交響曲第7番、第一楽章から二楽章。
二コラはその曲の名前を知っていた。
以前どこかで聴いたことがあるような、酷く懐かしい音色。
――キィー……
広間を速足で通り抜けて奥の部屋へ入ると、少女が一人、窓辺を向いて夜の月を見上げながらフルートを吹いていた。
その音は悲痛に満ちていて、哀しげだった。
彼女は二コラに気づくと、ぴたりと演奏を止めた。
「……二コラ、しん、じられないわ。……あなたなのね?」
「ぼくは……」
音が止んだ途端、二コラは我に返り、頭の芯が燃えるように熱くなる。
心臓は心拍数を増して、呼吸は荒くなる。。
(…そうだ、たしかぼくは、愛しい彼女――クロエを探していたんじゃないか!)
二コラが片割れのヴァイオリンのことを思い出したとき、少女の隣に横たわっているものが目に入った。
それは、――彼が探し求めていたたったひとつ、唯一無二のヴァイオリンだった。
「それ、彼女を返してくれ!……どうしてここに……おまえ、クロエをぼくから奪う気だな」
怒りに声を震わせて、二コラはクロエに近寄った。
クロエははっと目を見開いたあとで涙を流す。
二コラはクロエを思い出したわけではなかったのだと知り、絶望に項垂れた。