オレンジ

「やっぱり、いい曲」

VTRが終わり、司会者のトークへと画面が切り替わると彼女は言った。

「うん」

同じ曲を聴いていいと言い合ったり、同じ夕日を眺めて綺麗だと言い合ったり、同じ映画を観て面白かったと言い合ったり、同じアップルパイを食べて美味しいと言い合ったり。

俺たちはそうして、出会ってからの短期間でいくつもの気持ちを共有してきたのに、何より分かち合いたい気持ちを分かち合うことができていない。
たぶん、それが俺たち2人にとって、何より大事な気持ちであることは、お互いにわかっている筈なのに。

「あたし、やっぱりわからないんです」
「え?」
「さっき、訊きましたよね。なんで俺に会いにきたの?って」
「…うん」
「なんでか、わからない。けど、なんかどうしても今日、会いたいと思いました」


そう言って彼女は少し俯き、長い髪の毛を耳にかけた。
星の形をした、華奢なゴールドのピアスが揺れるその耳が、赤く染まっているのが見えた。

「アップルパイ、ふたつ持って帰っていいよって言われたとき、あなたのことを思い出しました。…なんでか、わからないけど」


少しずつ、声が小さくなったけど、かろうじて聞き取ることができたその言葉に、俺の頬も少し熱くなった気がした。


< 105 / 207 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop