オレンジ
わからないわけ、ない。
そんなの、理由なんてひとつしかない。
きっと彼女も、そんなことはわかっている筈だ。
けれどそれをあえて口にせず、「わからない」と言う。
その先をどうしても聞き出したいと思うより先に、身体が動いた。
「わからなくても、いいよ」
膝に置かれた彼女の白い手を、俺は握っていた。
その感触にハッとしながら俺を見る彼女の目を、俺はじっと覗き込む。
やっと、だ。
やっと、埋められる。
車の中でも、海辺でも、この部屋のソファの上でも、どうしても埋められなかった俺たちふたりの「隙間」。
「わからないままでいい」
俺は繰り返した。
俺を好きだと、今ここで言って欲しいけれど、それよりも今すぐに彼女を抱き締めたかった。
俺の隣で、耳まで真っ赤にしながら精一杯の強がりを言う彼女を。
「…俺と一緒にいればわかるよ。そのうち、きっと」
「………………」
「絶対、わかる」
「………………」
彼女の瞳が、心なしかうっすら潤んで見える。
それを隠すためだろうか、さっとまたテレビの方へ向き直る。
けれど、彼女は、その手を握っている俺の手を、反対の手で上から包み込むようにして握った。
「…信じてみても、いいですか」
やっぱりまた、とてもか細い声だったけれど、でもはっきりとそう言った彼女を、握った手を引き寄せるようにしながら抱き締めた。