オレンジ

そして、出て行ってすぐに、他の男と結婚したくせに。
俺がどんなに電話をしても、メールを送っても、なんの反応も見せなかったくせに。
今になって、連絡を寄越してきては、こんなふうにヨリを戻したがる。

「お前、旦那いるだろ」
「別れるよ?」
「…ふーん」
「別れて、拓真んとこ、戻りたいな」

ミナミが横から俺を覗き込むように見ている気配は感じ取っていたけれど、俺は顔を上げないまま、言った。

「俺と別れてまで一緒になった旦那だろ?で、今度はそっちと別れるから戻りたいって、なんだよそれ」

言いながら、俺は思い出していた。
そう言えば俺と付き合い始める時もミナミはそうだったことを。


ミナミに最初に惚れたのは俺の方だ。
けれどその時ミナミには他の男がいた。
それを知りながら猛アプローチを続けた俺に、ある日ミナミは言ったのだ。

「彼氏とは最近うまくいってないんだ。…いっそのこと、別れて、拓真くんとこいっちゃおっかな。ダメ?」

ダメなわけがなかった。

あの時俺は、どうにかしてミナミを振り向かせようと必死だった。
だけど今は、違う。

「なぁミナミ、わかってよ。頼むから。もう昔とは違うんだよ。俺も、お前も。旦那とうまくいかなくて寂しいのはわかるけど、俺はもう…」

してやれることはない。
と言おうとしたが、ミナミが口を挟む。

「じゃあ、どうして?」

< 138 / 207 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop