オレンジ

俺はミナミを見ずに言う。

「…別れた、とか言わないでよ。今せっかくこうして」
「別れてんじゃん。なぁ、何回も言ってんじゃん。忘れた?別れようって、お前が言ったんだろ」

ショコラが、お座りをして首を傾げながら俺たちを見上げる。
どうしたの?とでも言うように。
俺たちがまだ一緒に住んでいた頃に、ケンカした時もそうしていたのを思い出す。

「…後悔、してるよ」
「……………」
「…ごめんね」


そう言ってミナミは、膝に置いていた俺の右手に、その左手を重ねるともう一度繰り返した。

「…ごめん…」

この会話も、幾度となく繰り返した。
そんな言葉が欲しいわけじゃないのに。


「謝らなくていいから。今更」

俺は、重ねられた彼女の白い手をすり抜けてポケットに自分の手を突っ込んだ。
9月も後半に差し掛かり、さすがに夕方になると風が冷たい。

「俺、彼女いるって言ってんだろ。そういうの求められても、応えてやれない」
「彼女のこと、好き?」
「だから付き合ってんだよ」
「…羨ましいな。拓真の彼女」


女は、勝手だ。
何も言わずに、手紙1枚だけを残して一緒に暮らしていた部屋を出て行ったくせに。


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