オレンジ

シイナアヤノさん、ですよね?

あたしの手首を掴みながらそう尋ねた彼の顔を思い出す。

陽菜の言う通りだ。
なんであたしは今の今まで、不思議に思わなかったんだろう。

「…ねぇ、彩乃」
「うん?」
「ひとつ、思いついたんだけど」

陽菜の声からはさっきまでのあたしを少しからかうような楽しげなトーンが消えていた。


「ストーカー…とかだったり、したりして」

陽菜の思いついたことは、あたしの頭にも一瞬掠めていた。

「…まさか」
「いや、でも、そう考えたら一番自然っていうか、辻褄合わない?」

携帯を返すことを渋っていた彼。
携帯を返す代わりにと、デートを要求してきた彼。
なぜか、あたしの居所を知っていた彼。
あたしの顔を見て椎名彩乃だとわかっていた彼。

確かにすべて、彼があたしのストーカー
だったと考えれば説明はつく。
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