オレンジ
「今日、何してたの?あたしが出掛けたあと」
「え?特に…」
「車だったじゃない」
「…あぁ。ガソリン淹れに行ってただけ。ついでに車洗ってきた」
「…ふぅん」
自分から訊いておいて、気のない返事をする彩乃は、やっぱりこちらを見ない。
「…ひとりで?」
「うん。そうだよ。なんで?」
言いながら、俺の胸に不安が頭をもたげ始める。
どうして、彩乃はそんなことを訊いてくるのか。
いかにも、俺を怪しむような物言い。
なんの根拠も持たずに、あらぬ疑いをかけたりするほど、彩乃が俺を信用していないとは思えない。
…もしかしたら。
「…拓真、さぁ」
動揺が悟られないよう、俺は運転に集中した。
「…もう一回、訊くから、答えてね」
「なに?」
「昨日は、誰と、何をしてたの?」
やっぱりー
やっぱり、そうか。
彩乃は、車に乗ってから初めて、俺の顔をまっすぐ見つめた。
「昨日は、ひとりじゃなかったでしょう?」