オレンジ

そう言ったタイミングで、ホームに電車が到着した。
あたしの質問はけたたましい騒音にかき消されて、彼には届かない。


「え?なに?」


もう一度同じ質問を繰り返そうとして、
あたしは一瞬言葉を飲み込む。


陽菜の言うとおり、彼がストーカーだったとしたら。

すぐに携帯を返したりするだろうか。
メールとか着信とかチェックしたりとか、するんじゃないのかな。
あたしが落としたと気付いてから、携帯が手元に戻ってくるまで、一時間弱。


できないことはないけど…
デートの誘いとか、もしそれが最初から目的だったとしたら、もっと強引に迫っ
てきたりとか、するんじゃないのかな。

どうなんだろう。
でも、あたしがどんなに考えてみたとこ
ろで、散々抜けてるだのボケてるだの言われてる頭じゃ頼りない。


ここは素直に、陽菜の言うことに従った
方が安全かもしれない。
きっぱり、やめてほしいと言おう。


そう思って口火を切ろうとした瞬間、先
に言葉を発したのは彼だった。
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