オレンジ

ゆっくりと、無理やりに深呼吸をして呼吸を整える。
突然、しかも数年ぶりにした大泣きは、そう簡単には収まりそうにないけれど、何度か深呼吸を繰り返したらほんの少しだけ呼吸が楽になった。

目の前の拓真は憔悴しきっていて、まるでお母さんに叱られた少年みたいに小さく見える。
あたしをまるごとすっぽり包み込んでしまえるくらいに大きいはずの拓真のこんな姿は、できれば見たくなかったのに。
そんなことを思いながら、あたしはバッグからくまのプーさんのキーホルダーを取り出すと、そこから二つ、鍵を取り外した。
そして、この部屋の鍵だけがぶら下がったプーさんを拓真に差し出す。

「…返すね、これ」

拓真は黙って受け取った。










「…バイバイ」


「あや…っ」







拓真の声は、閉まる扉にかき消された。










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