オレンジ
別離~takuma~

「彩乃」

そう呼んだ俺の掠れた声だけが、玄関先に残されていた。
バタン、と音を立てて閉ざされたドアは、彩乃からの拒絶に思えた。


…終わったのか、これで。


「別れよう」と、言うべきなのはわかっていた。
ついさっき、彩乃の言葉を否定できなかった俺には、それでも彩乃を好きだなんて言える資格はないのだから。
それを否定できないのに、それでも尚俺を信じてそばにいてほしいだなんて、口が裂けても言えなかった。

今、大事にしたいのは彩乃だと思っているのに、その大事な彩乃を悲しませて、裏切っていることを知りながら、ミナミのことを振り切れないだなんて。
そんな身勝手を許す女がどこにいるというのだろう。

それなのに俺は、「別れよう」というその一言を口に出せなかった。
だって、別れたくないから。
望んでもいないことを、口にしたくなかった。
それ以外に、もう俺たちが辿る道は残されていないとわかっていたのに。


俺を信じてそばにいてくれた彩乃を、こんな形で裏切っておきながら。
それでも尚、俺はどこかで甘えていた。

「最低だな…マジで…」





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