オレンジ

彼は、なんと言っても、あたしより歳上
なのだ。
そのぶん、人生経験をあたしより多く重ねている。
恋愛経験の少ない、しかも注意力散漫で
あることは携帯を落としたことで実証済な、こんな大学生ひとり騙すくらいは、朝飯前なのかもしれない。


「あれー?また怖い顔してる。大丈夫だってば。まだ疑う?」
「…疑って、ますよ。そりゃ」
「そんな怪しいかな、俺。さっき全部話したのに。それでも?」
「…だってまだ、何もわからないですから。あなたのこと」
「そんな全部、何もかも知ってからじゃなきゃ信用できない?」
「そういうわけじゃないけど…」

自慢じゃないけれど、あたしの恋愛経験は決して多くはない。
と言うよりも、ほぼ、ないに等しい。

高校生のときに、中学からの同級生で仲が良かった男の子に告白をされて、付き合うことになった。
それは、あたしも密かに恋をしていた相
手だったから、嬉しかったし、彼に他に好きな人ができたという理由で振られるまでの一年半はとても楽しかった。

でも、とにかく、その彼とのこと以外に
は恋愛と呼んでいいような経験はほとんどゼロ。
その唯一の彼との、ごくごく一般的で、多くの高校生が辿るであろう模範回答みたいな男女交際以外に経験値を積んでい
ないあたしにとって、今回みたいなケースはまるで予想外で、キャパオーバーで、つまり、どうしたらいいのかわからない。
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