オレンジ
いつもそう。
ようやくあたしに笑顔を見せてくれたと思った次の瞬間、幸運の女神はあたしにキバを剥く。

「もうさ、携帯はいいから、ケースだけでも返してほしい…。あれ、本物のスワロでデコってるから高かったんだよ」
「あれ、可愛いもんね。じゃあ、取り返しに行く?」
「うそ、陽菜も来てくれんの?」
「ヤだよ。ヤられるに決まってんじゃん
。しかもたぶん、ブサイクにさ」
「…ですよね」

声の印象はそんなに悪くなかったけど、
とは陽菜には言わない。
たまたま拾った顔も知らない携帯の持ち主に、いきなりデートを持ちかけるなん
て、女に飢えた暇な男でない限り、たぶんしない。
という考えは、あたしも陽菜も一緒だから。

「じゃあさ、明日学校のあと、携帯買いに行くの付き合ってくれない?」
「あー、うん。いいよ。てかあんた、悪用されるまえにちゃんと携帯止めときなよ」
「うん、そうする」

陽菜にお礼を言って電話を切り、帰ろうと振り向いて初めて、後ろに人が並んでいたことに気が付いた。

「あっ…すみません」

長電話を謝ると、気まずくてあたしは急ぎ足で歩き出した。
その手首を掴まれ、振り向くと、知らない男だった。
神妙な面持ちで、あたしを見ている。

「すみませんでした」
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