オレンジ

え…？

わけがわからず、あたしの目の前で殆ど90度に頭を下げた彼のつむじを見つめていると、ゆっくりとそのゆるくパーマのかかった茶色い髪を揺らして、彼は顔を上げた。

頭ひとつ分背の高いその顔を思わずまじまじと見てしまったけれど、あたしの脳内メモリーのどの顔にも一致しない。

だれ…？

「シイナアヤノさん、ですよね？」
「…そうですけど…」
「はい、これ」

そう言って彼がおもむろにポケットから取り出し、差し出したのは見慣れた携帯。

「…あ」

受け取って、確認する。
正真正銘、あたしのものだ。

「じゃああなたが、さっきの…」

もう一度、携帯から彼の顔に視線を動かすと、彼は気まずそうに目を逸らして、片方の手を無造作にポケットへ突っ込んだ。

「…そうです」