オレンジ
扉〜takuma〜

「…今日って何の日だっけ」
「は?何言ってんのお前。…あ、肉の日じゃね?29日」
「…だよな。そんくらいしかねぇよな」

三茶、うちの近所の居酒屋。
俺は高校時代からつるんでいる同級生と飲んでいる最中だった。

「あー、肉っつったらすげぇ肉食いたくなってきたわ。焼肉にすりゃよかったな」
「あー…うん」
「なんだよその気のない返事。聞いてんの?」
「聞いてる。肉だろ。今度な」

氷が溶けて薄くなり始めたハイボールを流し込みながらも、俺は携帯の画面から目が離せずにいた。
どういう意味だ、これ。

「つーかなんだよお前、携帯見過ぎ。またアレか?なんだっけ、元カノ…名前忘れた。あのほら。なんつったっけ」
「うっせぇな、ミナミだよ。つーか、違うし」
「は?じゃあなんだよ、誰?」

そう言うと同時に、翔太は俺の右手から携帯を奪った。


「おま…っ!勝手に見んなよバカ」

慌てて奪い返したが、時すでに遅しだった。

「マジ、誰?椎名彩乃って」

翔太は好奇心に満ちた目で俺を見てくる。

「お前今日誕生日じゃねぇだろ?」
「違うわ。だから聞いてんだよ」
「だよな。バレンタイン、今年から7月29日に変わったんじゃね?」

焼酎水割り4杯目にして、少し酔いが回り始めている翔太がそう言って爆笑する。

「お前、バカにしてんだろ?つーか…それならチョコレートケーキだろ、普通」


携帯の画面にもう一度目線を落とす。



「甘いものは好きですか?もしよかったら、今から一緒にアップルパイを食べませんか?」

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