オレンジ
焼鳥にかぶりつきながら、翔太が俺を見る。
「なぁ、マジで誰?新しい女?」
「違うって」
「違うにしても、明らかにお前に気があるメールじゃん、それ。どうすんの?」
「……………」
気があるのは俺の方だよ。
と、言おうかとも思ったが、やめた。
もしそう言ったら、このメールを見た翔太はきっと「それならさっさとくっつけよ」とでも言ってくるだろう。
翔太とは仲はいいが、その分この男がどれだけお調子者かもよく知っている。
別に隠すつもりはないが、単純に、酔っ払っている翔太がそれをネタにして絡んできたら面倒だと思った。
しかし、メールの意図が気になる。
文面通りの意味なんだろうけど、何を思って彼女はこれを送ってきたのか。
甘いものは嫌いではないし、アップルパイはその中でも割と好きな方だ。
ここは素直に喜んで誘いを受けてみるか?
「まぁ、どっちでもいいけど…あ、よくねぇか。そのミナミとは?まだケリついてないんじゃなかったっけ」
「ケリはついてるよ。とっくに。向こうが勝手に駄々こねてるだけで」
「それがケリついてないってことじゃん?」
「いや、だって意味わかんねぇじゃん。向こうから別れといて何を今更って話だし…」
言いながら、煙草を1本取り出す。
ライターを目で探しつつ、メールの返信を考える。
「今から会おう」という内容のメールをわざわざ彼女のほうから送ってきたことに、俺は少なからず喜びを感じている。
断る理由もないのだから、すぐに返信できる筈なのだが、うまく言葉が出てこない。
メール返信作成画面を開き、見つめているとそれが不意に着信を知らせる画面へと切り替わった。
…彩乃ちゃんだ。