俺と初めての恋愛をしよう
「大丈夫です」
「今日子、こっちを見て」

俯いている今日子の顔を、両手で包み込んで上を向かせる。

「疲れている顔だ」

今日子はあふれ出す涙が止められなかった。
そんな今日子を後藤は抱きしめ、背中をさする。それは今日子が泣き止むまでずっと続いた。
後藤は何も聞かずに、ただただ今日子が泣き止むのを待った。
今日子には女子同士で悩み事を話す人がいない。恋愛など男には分からないことも話す人がいないのだ。
自己解決をしてきた今日子でも、初めての恋愛に同棲、プロポーズと次から次へと襲ってくる出来事を受け止めるだけで、処理を出来ていなかったのだ。

「なんでも話してほしい。どんなことでも」
「部長、わたし……」
「ん? なんだ?」

言いかけてやめた今日子に、後藤が話す。

「家の事、仕事と大変だろう。家のことはしなくていいんだぞ?」
「違うんです。今まで一人でいたせいか、他人との接触に疲れてしまって……ごめんなさい」
「そうか。俺の気持ちばかりを押し付けてしまっていたようだ。悪かった」

後藤は自分の気持ちを抑えきれていなかったことを反省した。
今日子が自分を変えようと頑張っていたことを、一番身近で見ていたはずなのに、傍にいる喜びに、つい、それを忘れてしまっていた。
翌日、出勤すると、植草のところに行った。

「今日子はここに来るか?」
「ここ最近は来ていないかしら」
「そうか」
「どうかした?」

いつでも自信たっぷりな後藤が、落ち込んでいるように、植草には見えた。

「今日子だが、気持ちを追い詰めてしまっていたようで、どうしたらいいか」
「なるほどね」

< 137 / 190 >

この作品をシェア

pagetop