俺と初めての恋愛をしよう
まじめすぎる今日子は、後藤が休みを取るようにと言ったのにも関わらず、大丈夫だと、仕事をしている。もちろん家事も完璧にして、外食の提案も受け入れない。
今日子の気持ちとしては、後藤にバランスの良い食事をさせたいという一心なのだが、それが自分を追い詰めていることを分かっていないのだ。

「あいつは俺しか悩みを打ち明ける相手がいないはずだ。だが、女には女の悩みもある。それを俺に言えるはずもない。日増しにそれを抱え込んで、心労で倒れやしないかと心配でな」
「女は悪口や愚痴を言って発散するものだけど、彼女はそれもないわけね」

後藤はそれに頷いた。

「発作が起きてしまう可能性があるわね」
「やっぱりな」
「で、あなたはどうしたらいいと思っているの?」
「俺は仕事を辞めないか。と提案したんだ。だが……」
「彼女の中で作り替えることを諦めていないわけね」
「そうだと思う」

今日子の仕事への執念は、作り替えるための資金を貯めることに尽きる。
後藤は深くため息を吐いた。

「だから早くことを進ませるのは良くないって言ったのに」
「ああ、お前も伊達に医者じゃない」
「失礼ね」

男の後藤は、どうすることがいいのか、さっぱりわからなくて、頭を抱える。

「手放したくないんだ」
「分かってるってば」
「ああ、もう」
「林さんは友達が欲しいわけじゃないわ。もともとおとなしくて人見知りな性格だから。今、彼女は自分と戦っているのよ。変わりたい、あなたにふさわしい女になりたいと必死なの」
「あいつはあれでいい! 何が俺にふさわしいだ!」

自分の価値をまだわかっていない今日子に向けての怒りだろう。

「あなたは、部のホープで将来は期待されている。まだまだ昇進の可能性がある。それにその外見。外見にコンプレックスがある林さんに、気にするなと言う方がおかしいの。最初から分かっていたでしょう?」
「まだ、俺の隣がふさわしくないと思っているのか……」
「そうよ」
「でも、思いは通じ合っている」
「女心は複雑なのよ」




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