やさしい色

 ―――もう終わった、と思った。

 ダサ過ぎだろ、俺……。
 ちょーかっこわりぃ……。

 自分が言ったことひとつまともに履行できなくて、あげく八つ当たりで惚れた女の子を責めて、問い詰めて、勝手に卑屈になって……


 そんなの、本人にぶちまけてなんになる?



 恥ずかしい上にみっともない、愚かしいし、腹は立つし……もう頭が煮えそうだ。


 泣く直前のよう、盛大に鼻が緩む。


 吐き出した息が白く煙って、泡沫のように一瞬その場をくゆらせたかと思うと、呆気なく消えた。


 確かめるように彼女を強く抱きしめて、入栄はその腕をゆるめた。


「……駄目ならいっそ駄目ってはっきり言って。そしたら俺も、ちゃんと自分にケリつけるから」


 あぁぁ、と入栄は口の中で呻いた。

 ……言ってしまった。

 彼女は非難するだろう、こんな身勝手な男を。


 呆れてものも言えないと、無責任だと、これほど器の小さい男だったのかと。




 短い沈黙のあと、彼女が俺の腕の中でかすかに身じろぎした。

 つたない動作で俺の肩に触れ、押す。


 ほんのすこしの体重でも、俺にはびりびりに引き剥がされたように感じた。


 なんと情けない顔をしていることかと思ったはずだ。

 未練がましく、目の縁を濡らしながら泣くのを必死に堪えている姿なんて、不細工の揃い踏みじゃないか。


 そう思い、口の中で苦く唸ったとき。
 


(!)


 肩を伝い、彼女の手が俺の頬を包んだ。


 俺は、これが夢ではないのかと、怪しんだ―――


 ……怪しんだし、おそれすらした。



 ……彼女の双眸は、濡れていた。


 細くなる目。
 寄った目尻のシワに涙が溜まって、落ちる。


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