美容師男子×美麗女子


「そうなの?彰」


思考が鈍っている。

香水の香りと、ほど良いアルコールの回りが心地いい。


「物心ついたときから、なんか、俺っておかしいなって思ってた」


彰の空になったグラスにワインを注いだ。

こんなに酔ってるのに、酌をしてしまうのは職業柄なのかな。


「父子家庭だったんだけど、俺にはどれが母親か分からなかった」


ぼんやりと、その意味を理解した。


「愛人さんを連れ込んでたってこと?」

「まぁ、そんなかんじ」


彰は苦笑する。


「なんか、よく分からなくなったんだよね」

「なにが?」


くしゃくしゃと頭をなでられる。

ぼんやりとして火照った思考がさらに鈍くなった。


「父親の愛人と寝たり、色んな女の子と遊んだりしたけど、やっぱりどうやっても恋愛には届かなくてさ」


彰がグラスを置いた。

彰の冷たい指が熱いあたしに丁度よかった。


< 171 / 210 >

この作品をシェア

pagetop