美容師男子×美麗女子
「わっ」
「・・・・なに」
「・・・・・・・え、あぁ、いや・・・・・、」
千尋は通常運転の平然とした顔で、あたしの靴下を脱がした。
人に脱がされるのって、なんか変だ。
千尋はそういうの、考えないのかな。
「今日、千咲、ヘン」
千尋は日本語を覚えたての外人みたいに、単語だけをつなげた。
それも、本日二回目の。
「さっきも、聞いた」
「上の空」
千尋はよっこいしょって言いながら床に腰を下ろす。
藍色のマニキュアを手の平でごろごろ転がしてる。
「なんかあった?」
千尋はマニキュアのハケを取り出す。
生温い手が、あたしの左足をつかんだ。
「分かる?」
「いや、なんとなく」
ひやりと親指に冷たい感覚が走った。千尋の目は真剣そのものだ。
溶けるような感覚だった。
千尋の部屋の丁度いい空調と、灯りと、千尋の匂い。
全部が落ち着く空間で、寝ちゃいそうになる。
「失恋した」
あたしは目を開いた。
なんで、こいつがそんなこと知ってるんだ。
「当たり?」
そんなあたしを見て、千尋は意地悪に笑う。