美容師男子×美麗女子

「わっ」

「・・・・なに」

「・・・・・・・え、あぁ、いや・・・・・、」


千尋は通常運転の平然とした顔で、あたしの靴下を脱がした。

人に脱がされるのって、なんか変だ。

千尋はそういうの、考えないのかな。


「今日、千咲、ヘン」


千尋は日本語を覚えたての外人みたいに、単語だけをつなげた。

それも、本日二回目の。


「さっきも、聞いた」

「上の空」


千尋はよっこいしょって言いながら床に腰を下ろす。

藍色のマニキュアを手の平でごろごろ転がしてる。


「なんかあった?」


千尋はマニキュアのハケを取り出す。

生温い手が、あたしの左足をつかんだ。


「分かる?」

「いや、なんとなく」


ひやりと親指に冷たい感覚が走った。千尋の目は真剣そのものだ。


溶けるような感覚だった。

千尋の部屋の丁度いい空調と、灯りと、千尋の匂い。

全部が落ち着く空間で、寝ちゃいそうになる。


「失恋した」


あたしは目を開いた。

なんで、こいつがそんなこと知ってるんだ。


「当たり?」


そんなあたしを見て、千尋は意地悪に笑う。


< 47 / 210 >

この作品をシェア

pagetop