美容師男子×美麗女子
「俺は、いつだって男より女の方が輝いてて、しっかりしてると思うけど」
千尋は丁寧にクリアカットのストーンを爪に乗せていく。
あたしは言葉を、ぼんやりと聞いていた。
「千咲は、違うのか?」
今度は人差し指を塗りはじめる千尋。
親指には、きれいな宝石が散りばめられた、凛とした藍色があった。
「・・・・・・・さぁね」
千尋は正論を言った。
ただそれが、あたしの経験上に無かった言葉なだけ。
「上手だね、塗るの」
「当たり前だろ」
千尋は満更でもなさそうに、笑った。
こういうのを、楽しそうって言うんだ。
ちゃんと将来が見えてて、やりたいことが決まってて、それに向かって走ってる。
それに比べて、あたしはどうだろう。
もう高校2年生にもなるのに、進路の紙は真っ白だ。何になりたいのか、何をしたいのかなんて決まってない。
現在が不安定なのに、もっと先の将来のことなんか考えられるはずも無い。
「千咲、無理してるだろ」
ついこの間会ったばかりのあんたに、何が分かるのか。聞いてみたくなったけど、やめた。
千尋は、核心しかついてこない。
「全然。だってあたし、苦労知らずだから」
「そう」
千尋についた、嘘。
本当は、今の生活がきつい。
大好きな人が、お姉ちゃんの婚約者なの。そう言ってしまえば楽なんだけど。