仮からはじまる

でも、驚くあたしをまるで気にしてないみたい。
結城真一はあたしをひょいと肩に担いで抱きかかえた。

ちょっと!!
そんな簡単に持ち上げないでよっ!!

拍子抜けしてその場に固まる男たちを無視して。
結城真一はあたしを抱えたまま突然走り出す。

どこに行くつもりなのよっ!!

後ろ向きに抱きかかえられて。
追いかけてくる男たちが嫌でもよく見える…。
こ…、怖いー!!

「アツ!」
「はいはーい!」

呼ばれた平野篤の、のんびりした返事が響いて。
ほんと、場違いだわ…。

平野篤はあたしの自転車に乗って、あたしたちを追いかけてくるの。
同じように追いかけてくる男たちを、すれ違いざまに蹴り倒しながら…。

結城真一は近くに置いてあった原付に乗ると、なぜかあたしを膝の上に座らせて。
エンジンをかけると一気に急スピードで走り出す。
あたしの自転車に乗った平野篤は、原付のハンドルに掴まって。
無事(?)に、着いて来てるみたい…。

ぎゃ…、
ぎゃぁあああー!!
何よこれー!!
なんなのこの状況ー!!
どうしてこうなるの!?
ていうかこの原付のスピード!!
怖すぎるのよっ!!

追いかけてくる集団をあっさりと引き離して。
駐車場を飛び出す。

「じっとしてろよ、前が見えねーから」

言われても。
結城真一にがっちりと背中に手を回されて身動き取れないし。
第一、怖すぎて動けないわっ!!

ていうか。
一体、どこに向かってるの?
聞こうとしても

う…。
うまく話せない…。
まともに話せないあたしをにこにこ見つめながら

「あははー大丈夫だよー」

平野篤にのんきに言われる。

あのねっ!!
大丈夫なわけ、ないでしょー!!
どういうつもりなのっ!?

すれ違うくるまに思いっきり見られて。
そりゃそうよね、こんな状況。
普通じゃありえないもの。

ただの原付二人乗りでも危ないのに。
いすに座る結城真一と、なぜかその膝に座るあたし。
ハンドルに掴まる自転車の平野篤の並走…。
どう見てもおかしいでしょー!!
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