青のキセキ
石川さんが戻って行ったあと、しばらく1人でベンチに座ったままボーっとしていると、久香がやって来て、隣に座った。


「告白でもされた?」

「え?何で分かるの?」

「そりゃ、分かるわよ。あの人、いい人そうだね」

「うん。いい人だよ。石川さんて言うんだけど、ランチに誘ってくれたり、仕事を教えてくれたり、とてもよくしてもらってるの」

「そっか。で、何だって?」

「好きな人がいるって断ろうとしたんだけど、少しでも可能性があるんだったら、考えて欲しいって言われた。返事は急がないって」

「そうなんだ。本当に遙菜のこと、好きなんだね」

「石川さんにね、好きな人がいるって言ったら、その人と付き合うの?て聞かれたんだけど、何にも言えなかった」

「遙菜...」

「そりゃ、そうだよね。付き合う事なんてできないんだもん。叶わぬ恋なんだから」

「遙菜はどうしたい?」




久香に聞かれて、私は何も答える事が出来なかった。


広場の方へ目をやると、課長と綾さんが2人並んで座っているのが見えた。


綾さんのにこやかな笑顔。


お似合いの2人。



「私、石川さんのこと、考えてみようかな」

「遙菜?」

「いくら課長のことを好きでも、どうしようもないから。それに、私の気持ちを知ったら困ると思うの。私、課長を困らせたくないから」

「海堂さんに気持ちを伝えないの?」

「課長が結婚してなかったら、気持ちを伝えようとしたかもしれないけど、綾さんがいるのを知ってるのに、そんな非常識な事できないよ。課長のこと、忘れる努力をした方がいいのかもしれない」

「それは......」







「ね、久香。私、石川さんのこと、好きになれるかな?」

「海堂さんに対する気持ちから、逃げるの?」

「逃げる…そうだね。このまま課長を好きでいることが怖いの。だから、他の人を好きになれるんなら、その方がいいんだって思うの。こんな私を好きになってくれるなんて、石川さんのこと嫌いじゃないし、少しずつ慣れてきたし、もしかしたら、触れられても大丈夫になるかもしれないよね」



もう、課長を好きになるのは止めなきゃ。
課長と綾さん、お似合いの夫婦を目の前に、私が課長を好きでいることは課長にとって迷惑なんだと思った。

課長は綾さんのもの。それが現実なんだから。



石川さんに告白され、こんな私の事を思ってくれる人がいることは素直に嬉しく思う。


だから、石川さんと友達から始めてみるもの悪くないのかも...と思った。




課長への気持ちを忘れる為に。



現実逃避になろうとも。
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