青のキセキ
「遥菜のせいじゃないよ。全部、アイツが悪いんだから...」


久香が手の甲で涙を拭いながら言う。




「確かに、彼の暴力が原因で赤ちゃんはダメになっちゃったけど、守ってあげられなかったのは私のせいだから...」


あれからずっと思ってた。







「美空、もう自分を責めるのは止せ」



「課...長」


「お前は悪くない。守ってあげられなかったと言うが、ソイツに殴られたり蹴られたりしたときに、お前は守ろうとしたんだろう?」



あの時、彼に蹴られながら止めてと叫んだ。

お腹を庇いながら...。





「お前は、ちゃんと小さな命を守ろうとしたんだよ。守ってあげられなかったことを悔やむだけじゃなくて、守ろうとした自分のことも認めてやれ。お前は守ろうとしたんだ」



課長の言葉に胸が痛くなった。

当時、翔さんや久香にも同じことを言われたのを覚えている。
でも、素直に受け入れられなくて。



「そうだよ、遥菜ちゃん。赤ちゃんを守るために、彼を拒んだ。それは、君が小さな命を大切に思ってた証拠だろ?」


「遥菜、もう自分の幸せを考えなよ」


翔さんや久香の気持ちが嬉しかった。



あれ以来、私の中で小さな天使に対する罪悪感が絶えず心にあった。


一つの命を守れなかった自分を戒める必要があったから。






でも、時が経って。





私のことを親身になって考えてくれる人が、こんなに近くにいる幸せを感じて。

好きになった人に、自分を認めてやれと言われて。







あの出来事を忘れることなんて出来ない。


でも、『消せない記憶』を無理に消す必要はないのかもしれない。




それよりも、自分自身を見つめなおすことが大切なんじゃないかと。


これからの人生の中で、その記憶をプラスに活かせるように。





ねぇ、課長。



私、許されていいのですか?



あなたの言うとおり、守れなかったことを後悔するだけでなく、守ろうとした自分に誇りを持っていいのですか?
























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