青のキセキ
それからしばらくして、ドアをノックする音がした。
「久香?俺だけど」
遥菜の様子を気にしながら、ドアを開けた。
「ごめんね、変なこと頼んで。一花は?」
「母さんに預けてきた。遥菜ちゃん、大丈夫か?」
「入って。ここで待ってて」
翔ちゃんから服と下着の入った紙袋を受け取った私は、翔ちゃんにドアの所で待っててくれるように言ってから遥菜の側に寄った。
「遥菜、これを着て。先にシャワー浴びる?」
翔ちゃんから遥菜を隠すようにして、袋を遥菜に渡す。
「久香、もしかして...遥菜ちゃん...」
後ろから聞こえた翔ちゃんの声。
私は何も言えなかった。
ボロボロの遥菜を目の前にして、何があったのかなんて。
でも、翔ちゃんは、部屋の中と遥菜の様子を見て何があったのか悟ったようだった。
「翔ちゃん、遥菜を病院に連れて行きたいんだけど...」
「...そうだな。顔も結構腫れてるし、それに...」
翔ちゃんが何か続きを言いかけたけど、遥菜のことが気になる私は遥菜にシャワーを浴びて服を着るように促した。
「ダメだ。シャワーは駄目だよ、遥菜ちゃん。できればトイレも我慢して」
「どうしてシャワーしちゃダメなの?」
翔ちゃんが何故シャワーをしちゃダメだと言ったのか、不思議に思った私。
「......あいつの痕跡を消さない方がいい。遥菜ちゃん、聞きにくいんだけど...その...中に出された?」
「翔ちゃん!何でそんなこと...」
「遥菜ちゃん、言いにくいと思うけど大事なことなんだ。あいつが遥菜ちゃんに乱暴した証拠になるから、そのまま病院と警察に行った方がいいと思う」
「警...察...?」
遥菜がビクッとした。
「うん。あいつを捕まえてもらうために、証拠として衣類や下着も持って行った方がいい」
翔ちゃんが居てくれて本当によかった。
私は、そこまで考えてなかった。考えられなかった。
怯えた遥菜を慰めるように肩を抱きながら、ホテルを出る準備をする。
私にとって、遥菜は大切な友達。家族と言っても過言じゃない。
遥菜が身体と心に受けた傷の深さは、きっと。とてつもなく大きくて。
もし、自分が...と考えただけでも怖くなる。
用意をし終え、ソファに座っている遥菜が、今にも消えてしまいそうに見えた。
側に居なきゃ...。
遥菜の側に居ないと...。
遥菜が変なことを考えないように....。