青のキセキ

電話で聞いた元気そうな声とは裏腹に、弱々しい美空の姿をみて胸が痛む。


ちゃんと眠れていないんだろうと一目見て分かるぐらい、この2日で一気に窶れた。もしかしたら、食事も取れていないのかもしれない。


そして、顔の傷がさらに痛々しさを増していた。



お互いに何を話せばいいのか分からないまま、黙り込む。

静かな部屋の中。



美空の淹れてくれた紅茶の香りが部屋に漂う。



ずっと俯いたままの美空。









大丈夫なのか...?


堪え切れず、美空の頬に触れた。







――――刹那。






美空の目からこぼれ落ちる涙。






俺が知っているのだと悟った美空に、俺は何も言えず、ただ目を閉じることしが出来なかった。




俺に背を向け、嗚咽する彼女。


『ごめんなさい』と、言葉を詰まらせながら...。


何度も何度も謝罪の言葉を口にする彼女を、思わず後ろからギュッと抱きしめる。



手に感じる美空の柔らかな肌、髪から香る甘いシャンプーの匂い。





俺が求めているのは、この肌ざわり、この香りなのに...。



なのに、俺は綾を.......。




このまま美空に黙っていることは出来ない。



一時は、美空に黙っていようと思った。言わなければ知られることはないだろうと。




でも、美空に隠し事はしたくない。


美空に隠し事をしてほしくないから。






俺が綾を抱いたことを知らない美空は、俺の腕の中で謝り続けている。




謝る必要はない。悪いのはお前じゃないんだから。




俺が綾を抱いたことを美空に告げると、彼女は一瞬ビクッと体を震わせた。




そして、それを自分のせいだと言う。



違う、違う!!



悪いのは俺だ...。




その時、美空の口から出かけた、一番恐れていた言葉。




嫌だ。別れるなんて言わせない。




俺は、お前を愛してる。こんなに人を愛したの初めてなんだ。


お前の全てがこんなにも愛しいのに。





「愛してる」




と、美空に伝えれば、彼女は声を上げて泣き出した。

まるで子供のように...。




俺は、そんな彼女を抱きしめて放さなかった。












< 524 / 724 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop