青のキセキ
電話で聞いた元気そうな声とは裏腹に、弱々しい美空の姿をみて胸が痛む。
ちゃんと眠れていないんだろうと一目見て分かるぐらい、この2日で一気に窶れた。もしかしたら、食事も取れていないのかもしれない。
そして、顔の傷がさらに痛々しさを増していた。
お互いに何を話せばいいのか分からないまま、黙り込む。
静かな部屋の中。
美空の淹れてくれた紅茶の香りが部屋に漂う。
ずっと俯いたままの美空。
大丈夫なのか...?
堪え切れず、美空の頬に触れた。
――――刹那。
美空の目からこぼれ落ちる涙。
俺が知っているのだと悟った美空に、俺は何も言えず、ただ目を閉じることしが出来なかった。
俺に背を向け、嗚咽する彼女。
『ごめんなさい』と、言葉を詰まらせながら...。
何度も何度も謝罪の言葉を口にする彼女を、思わず後ろからギュッと抱きしめる。
手に感じる美空の柔らかな肌、髪から香る甘いシャンプーの匂い。
俺が求めているのは、この肌ざわり、この香りなのに...。
なのに、俺は綾を.......。
このまま美空に黙っていることは出来ない。
一時は、美空に黙っていようと思った。言わなければ知られることはないだろうと。
でも、美空に隠し事はしたくない。
美空に隠し事をしてほしくないから。
俺が綾を抱いたことを知らない美空は、俺の腕の中で謝り続けている。
謝る必要はない。悪いのはお前じゃないんだから。
俺が綾を抱いたことを美空に告げると、彼女は一瞬ビクッと体を震わせた。
そして、それを自分のせいだと言う。
違う、違う!!
悪いのは俺だ...。
その時、美空の口から出かけた、一番恐れていた言葉。
嫌だ。別れるなんて言わせない。
俺は、お前を愛してる。こんなに人を愛したの初めてなんだ。
お前の全てがこんなにも愛しいのに。
「愛してる」
と、美空に伝えれば、彼女は声を上げて泣き出した。
まるで子供のように...。
俺は、そんな彼女を抱きしめて放さなかった。