青のキセキ
ある日のこと。
課長を郊外のカフェに呼び出した。
ここなら誰にも見られずに済みそうな穴場的なカフェ。
約束の時間通りに課長がやって来た。
「どうした?急に会いたいなんて...何かあったのか?」
課長が不安そうに聞いた。
「すみません。ただ会いたかっただけなんです。たまには外で会いたいなぁなんて」
「そんな可愛いこと言うなよ。抱きしめたくなるだろ」
「ここ、少し前に見つけたお店なんですけど、フルーツタルトが絶品なんです」
課長に見つめられて顔が赤くなるのを感じた私は、それを誤魔化すかのように早口で言った。
二人してタルトと紅茶のセットを頼んで、ゆっったりとした時間を楽しむ。
外でこんな風にお茶することなんて、ここ最近なかったから、何だかいつも以上に時間が緩やかに感じられた。
「そう言えば...美空、誕生日プレゼント決めたか?」
突然思い出したように課長に言われ、一瞬答えに詰まったけれど、ティーカップを置いて姿勢を正して私は言った。
「課長の『時間』を私に下さい」
「時間?」
意味が分からない様子の課長。
「一緒に旅行に行きたくて...。一泊でいいんです。どうしても行きたい所があって。だから...課長の『時間』を私にくれませんか?」
課長と別れると決めてから、最後に課長と旅行したいと思った私。
本音を言えば、もう少し長い時間を一緒に過ごしたかったけれど、仕事も忙しいだろうし、綾さんのこともあるし、これ以上無理は言えないと思った。
「いつがいい?」
「課長の都合に合わせます」
すると、課長が鞄からシステム手帳を取り出して予定をチェックし始めた。
「そうだな...。今月末の週末なら大丈夫だ」
「でも...週末は...綾...さんは来ないんですか?」
「...もし来るって言っても、お前との旅行の方が大事だから何とかするよ」
「すみません」
「何でお前が謝る?俺がお前といたいんだから、謝る必要なんてないよ」
『お前といたい』
そう言われたことがとても嬉しかった。
それと同時に、心が痛かった。
この旅行が...課長と一緒にいられる最後だから...。
「旅行の申し込み等と手続きは、私がやりますから...。決まったら連絡しますね」
胸の痛みを抑えながらそう言うと、課長が『楽しみにしてる』と言ってくれた。
これが...最後...。
あなたと一緒にいられる最後になる...。