青のキセキ
「質問に答えろ」

低い課長の声。


どうして。

課長は疑問に思ったのか。


全く見当もつかなくて、私は何も言えず俯くしか出来なかった。



「答えてくれ、美空」


頼むから...と、課長が私を覗きこむようにして優しい声で言った。私に触れている課長の手が、微かに震えている。



課長が震えている。


課長が苦しんでる。


課長を苦しめているのは、誰...?



何故、課長は苦しんでるの?


課長が今望んでいることは、私が結婚しているか、していないかの答え。


それを言えば、課長は楽になれるの?

私が結婚していないと言えば、課長は苦しまなくて済むの?




でも、本当のことを言えば、更に課長を苦しめることになるんじゃないの?



頭のなかを駆け巡る思考。



それにしても、何故。

何故、課長は疑問に思ったの...?



「どうして?急にそんなことを?」


それを確認するために、私はもう一度課長に聞いた。


課長の手が私から離れ、碧の鞄に触れる。

そして、「これだよ」というようにトントンと人差し指である部分を示す。


そこには。



『みそら みどり』



と、私が刺繍した名前。








そうか...。


それを見て気付く。




名字が『美空』のままだから、課長は変に思ったんだと。



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