孤独の戦いと限界
〜新学期〜

新学期が始まり3年になり、皆、心機一転の時期を迎える。

俺を除いて…。

精神的ダメージで立ち直れず、酒に手を出してはヤケ飲みし、うつ病にまでなり、リスミンやベタマックやら、訳の解らない精神安定剤を必要とした。

食欲は出ず拒食症になり、体は痩せ細り、無気力な日々が続いた。

側にいるはずの恋の人が遠くに‥。
淋しさに耐え続ける日々で、生きるのに限界を感じ始めていた。


〜教室〜


クラスの中で笑い声が、クスクスと響く。まるで、俺の人生の空振りを笑われているように感じた。


『…とぉ…、…み』

『………』

『…ほら宮川、昼休みはもうすぐだから起きてなさい』

『!、はっ!』

酒が体内に残ってるせいか、いつになく睡眠作用が働く‥。


『…何か喋ってませんでしたか?』

『さぁね』

『………』

周りの視線が少しくすぐったい。
また例の寝言を呟いたようだ、‥くそ。

…‥


〜昼休み〜

食堂に行かず睡眠をむさぼる。
食欲が出ないから、食費を酒に回している。

不健康すぎて、体はいつも悲鳴を上げていて、内蔵がチクチクと痛い。


『宮川、起きて』

椎名か…、寝たふりしておこう。

『ほら、起きなさいよ!』

バシっ!
‥と背中を叩かれるが、極度の疲労で無視する。


『宮川っ!』

バンっ!バンっ!…‥

何回も強く背中を叩くが、精神的ダメージの方が、遥かに大きい俺は気にも止めない。


『…宮川』

椎名の方が根負けして肩を揺すってきた。


『‥何だよ』

『何だよ、じゃないでしょ!、ホントに大丈夫なの?』

『…ああ、大丈夫だ』

『最近、昼ご飯を食べてる姿を見ないんだけど、家ではちゃんと食べてるの?』

『…ああ』

『嘘ばっかり!、いつも酒ばかり飲んでるんじゃないの!?』

『‥椎名』

『何よ?』

『俺には関わるな、と言ったはずだ。なぜ来るんだ?』

『そんな事を言われて、真に受ける人間は馬鹿でしょ』

確かにそうだろう。けど本当に独りが楽な時がある。今の俺がそれだ…。


『1人にさせてくれ!』

『み、宮川?』

『もう疲れたんだ…、全てに…』

『‥大丈夫?』


弱々しく呟く。
友美への想いを抑えるだけで、重労働なんだ。

『頼む‥、静かに休ませてくれ』

『今の宮川の姿を見ると、友美は動転しちゃうわよ』

痩せ細ったのは自分でも解る。不健康になったのも解る。けど…


『休ませてくれ…』

『………』

俺は何も考えたくないんだ…。

…‥


〜放課後〜

『…気分悪‥』

帰ろか…、少しでも気分を紛らわせる事ができる酒が待ち遠しい。

『優助君、今いい?』

『…やぁ、恵理』

『少し付き合ってくれるかな』

『さけ…、じゃなく本屋に寄るから、ちょっと無理かな』

友達をひたすら避け、引きこもり酒ばかり頼っている。
どんどん現実逃避が進む日々だ。

『(酒‥)』

『今日は止めてくれ』

『大事な話ですから』

『………』

『…いいでしょ?』

無気力な俺に対し、恵理は怒っているように真剣だった。
中々、珍しい表情をしている。


『…わかった』

大事な話か‥
聞く気力がもたないが‥


…‥


〜屋上〜

酒が待ち遠しい、俺は愛想なく質問した。

『…話って?』

『優助君‥、相当思い詰めてるね…』

『………』

『素直に戻って来てほしい、と言いたいんだよね?』

『‥、……』

『授業中、又、友美の名前を呼んでたよ』

やっぱり何か寝言を喋ってたか…
いびきもするし、寝言とも言う、寝癖がとことんひどいな…


『………』

『優助君…』

『…恵理』

『あっ、何かな?』

『俺に構わないでいいよ、迷惑な存在でしかないだろ』

『迷惑じゃないよ、そんな事言わないで!』

『すまない‥、でももう俺には構わないで。何もかも嫌になったんだ、自分さえも』

なりふり構わず、屋上を出ようとする俺の後から、恵理の声が届く。


『…覚えてるかな、最初に出会った私と優助君』

『………』

初めて会った時?
記憶違いでなければ、恵理が誰かに告白を受けていたな。


『初対面の私に頭痛の心配してくれて、家まで送ってもらったりして…』

『………』

『色々な話をしてくれて、凄く嬉しかったんだよ。次の日はどんな話をしてくれるのかなって…』

『…恵理?』

『私の大好きな人が、ボロボロになってるのに、見捨てる事が出来るわけないじゃない!』

『………』

『私だって、優助君のことを…』

『!、……』

恵理の悲痛な叫びが、一気に俺の精神を復調させた。

『私…』

『恵理‥、俺には友美がいるよ』

『解ってます。でも今度は私が優助君を助けてあげたいから。もう今の優助君を見てる方がつらいの!』

そんな…‥
俺は1人でも大丈夫だ。
酒だって今は、いい友達だし。

『止してくれ。俺は恩を預けた気はない。恵理は俺より素敵な男と幸せを…』

『今、私の言った事、忘れないでね。相談はいつでも受けるからね』

俺の言葉を制して、そのまま屋上を出る。


『…俺は単純に、人助けが好きなだけなのに』

…‥

< 30 / 45 >

この作品をシェア

pagetop